2016年産業組織心理学会参加レポート④:【オーガナイズドセッション】観光を産業・組織心理学から研究する

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2016年産業組織心理学会参加レポート第4弾、シンポジウム「観光を産業・組織心理学から研究する」についてです。

意外にも、日本の産業組織心理学会では、観光・旅行業についての研究・実践は盛んではないようです。しかし、米国では、観光・旅行業に関する博士論文が書かれている領域で一番多いのが心理学だそう。これから日本の観光・旅行業に関する心理学研究が増えることを願って本シンポジウムが開催されました。

シンポジストは公的機関の方から、大学教員、旅行会社関係者と多岐にわたります。2020年のオリンピックに向けて自分も心理学者としてやれることがありそうだと感じる有意義な回でした。

まず、日本交通公社の柿島あかね先生が、旅行観光業の定義と国内外の動向についてお話されました。旅行観光業は、宿泊や観光にとどまらず、運輸、飲食、娯楽といった各種産業を含めた、また、出張や帰省などの移動も含めた、包括的な産業だということです。また、いわずもがなですが、日本も含めて世界的に旅行人口は増加傾向にあります。安倍内閣は、2020年、2030年に向けて、日本の旅行観光業を拡大すべく、大きな目標を掲げているということです。

次に、立教大学の小口孝司先生、旅行観光研究における心理学の位置づけについての発表がありました。安倍内閣は日本再興戦略2016を打ち出していますが、その10の柱のうちの1つが旅行観光業の開発です。また、小口先生曰く、他の柱に関しても、間接的な関わりを含めれば、ほとんどの柱で旅行観光業が関わっているということです。

さらに、小口先生の発表では、先生が実際に行われている旅行や観光に関する心理学研究について紹介され提案した。その一つがメンタル・ツーリズムの研究です。メンタル・ツーリズムとは、旅行や観光をメンタルヘルスの観点からとらえなおした言葉です。小口先生は、旅行がメンタルヘルスの増進に与える影響を研究しています。当然、旅行はポジティブな影響を与えますが、ポイントは、それをいかに持続させるかです。小口先生の発見した一つのコツは、職場にお土産を買ってくることだそうです。お土産を買って、同僚に配ることで、旅行の効果が持続するという研究の結果を報告されていました。

旅行観光業の心理学研究、まだまだできることはいくらでもありそうです。

三番目の発表者は、文教大学(国際学部)の山口一美先生でした。山口先生はホテルにおけるどのようなサービスが顧客に癒しを与えるか、また、どのような職場環境が顧客の癒しを深めるようなサービスを高めるかということに関する、自身の研究についてご紹介していました。山口先生の研究によれば、「すぐに対応」「礼儀正しく」「適切な距離感」というサービスが顧客のポジティブな感情体験と顧客満足度を生み、顧客のロイヤリティ行動を促進するということです。

一方、マネジメント(研修の提供、エンパワメント(権利付与))や、職務満足感の管理(モチベーション促進、適切な給与、良好な人間関係(助け合う、コミュニケーションが取れる))がきちんとできている企業では、従業員のサービスの質が向上するということでした。

これらの要素が、ホテルの従業員のサービスを向上させ、顧客のポジティブ感情と満足感を高めるということです。

最後に、じゃらんリサーチセンターの沢登次彦氏ともう一方、急きょ参加した大学の先生から指定討論があり、ディスカッションは大いに盛り上がりました。企業も研究に協力している研究者を求めているし、旅行や観光に関する研究を求めているということでした。

私自身も研究者と産業界との距離が遠いことが、心理学の研究や実践が盛んにならないことの原因なのではないかと質問させていただきました。しかし、企業の方にもニーズはあるし、登壇された先生方はゼロから企業とのパイプを作られたということで、接点を作ろうと思えば作れるとのことでした。

官民学の連携で盛り上げることができる、とても熱い分野だと実感しました。私も心理学サービス業の主峰、ホスピタリティ心理学の講師として、旅館の従業員研修など、何かできることを考えていきたいと感じました。

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I.近年の観光の動向(柿島あかね、日本交通公社)

1.旅行観光とは
・国連世界観光機関(UNWTO):1年を超えない期間で通常と異なる場所を移動する
・狭義:レジャー、観光
・広義:出張、帰省
・旅行・観光産業
 -運輸業
 -宿泊業
 -観光業
 -飲食業
 -娯楽業
・効果
 -経済、社会的(イメージ、つながり)、文化的
 -物理的影響、心理的影響
 ⇒ 持続的な観光振興の重要性

・経済効果
 -宿泊、食事、移動、観光

2.世界の観光の動向
・伝統的にはアメリカ、イギリス
・最近は中国も
・日本は16位
・効果
 -GDPの10%
 -雇用11人中1人
 -貿易の7%
・見通し
 -2015年11.9億人
 -2030年18億人

3.日本の観光の動向
・宿泊数、漸減
・2016年19,597人、2029年19,102人
・海外旅行
 -1980年代:大衆化
 -2003年:漸減
 -2004年:最多
 -過去3年減少:円安の影響
・訪日外国人:2015年1,974人
 -2015年に日本人海外旅行者数を抜く
 -クルーズ船:過去最高1452回
 -航空路線の拡大
 -訪日プロモーション
 -円安、ビザの緩和、消費税免税
・旅行収支
 -2014年に黒字に、2015年は3.02vs1.93
・観光産業(旅行業)
 -総合系:JTB、日本旅行、近畿日本ツーリスト
 -ネット系:じゃらn、楽天トラベル
 -専門特化型:WATABEウエディング、クルーズPlanet、
 -振興形:HIS
 -中小旅行業者

・旅館 vs ホテル
 -旅館の件数が横這い、2010年にホテルが旅館を逆転

・観光政策
 -2016年:3,153億円
 -安倍内閣3年間の成果:旅行者数は2倍、旅行消費額は3倍
 -2020年:4千万人に、旅行消費を8兆円に
 -2030年:6千万人、旅行消費15兆円

・3つの視点
 -観光資源の魅力を伝え、地方創生
 -観光産業改革
 -すべての旅行者がストレスなく


II.観光研究における心理学の位置づけ(小口孝司先生、立教大学)
1.なぜ観光心理学が必要なのか?
・製造業ベース
・対人サービスに関わる研究が少ない
・情報産業に対応できている?
⇒観光を扱っても良い?
・観光は人がするもの
・日本の観光研究:都市計画、地理、文化人類学
⇒経験論による政策
・世界の観光研究
 -心理学が1位、環境学、文化人類学…

2.日本の現状:観光が政策の大きな柱
日本再興戦略2016
・9本のうち1つが観光
・サービス業、中小企業を含めると大半を占める

日本再興戦略2016.jpg


3.今後求められるもの
・現在は学際研究が主流になりつつある
・特に日本では、心理学を用いた学際的研究が今後は必須
・特にホスピタリティ分野とのかかわりがあるので、産業組織心理学を研究されている方が参入できる

4.世界のトップホテルに求められるもの
・「スターウッド・ホテル&リゾート」の傘下ホテルへの聞き取り調査
 -日本の産業組織心理学者が知っていることは全部知っている

5.どんな研究をしているのか?:メンタルヘルスツーリズムの展開
・ヘルスツーリズムの中でも心の健康に焦点を当てる
 -あまりない
 -難しい
 -当たり前
・どうすれば旅行のポジティブな気持ちが持続する?(Oguchi et al 2015)
 -お土産を配る

・旅行の人事評価への効果(宮川・川久保・小口 2016)
 -旅行経験がある人の方が、人事評価が高い
 -問題解決能力、対人関係効力感、課題達成効力感
 -SPIでは何も出てこなかったのに…


III.対人サービスと顧客満足、職務満足の関係(山口一美、文教大学国際学部)
1.はじめに
・近年「癒し」を提供するといわれているサンラスト型の観光地、特にリゾートへの関心が高い
・多様なアクティブティがストレス低減に効果的(岩の・山口2013、柏・吉田1999)

2.(Yamaguchi&Oguchi 2015)
・どのような対人サービスが顧客に「癒し」を与えるか
・「突かず離れず」(山口・小口, 2013)
・「顧客のニーズを満たす」(山口・小口, 2014)
・「肯定的な感情経験」(Ladhari et al 2007)
・対人サービスモデル(Kim & Han 2008)
・顧客満足⇒信頼・コミットメント⇒ロイヤルティ行動
・因子分析
 -対人サービス:すぐに対応、礼儀正しく、距離感
 -顧客の感情経験:癒し、安寧、興奮、心地よい
・サービス⇒感情経験⇒顧客満足⇒信頼感⇒ロイヤリティ行動「また利用したい!」

3.研究2(Yamaguchi & Oguchi 2016)
・どのような要件が整っていることが従業員の職務満足を高め対人サービスに影響?
・エンパワメント(権利付与、裁量権)(Babakus et al 2003)
・職務満足
・職務満足は肯定的感情(Edward & Scullion 1982)
・マネジメント/コミットメント⇒職務満足⇒対人サービス(+)・抑うつ(-)
・因子分析
 -マネジメント:研修、エンパワメント(権限) 
 -職務満足:モチベーション、適切な給与、人間関係(助け合う、コミュニケーションが取れる)
 -対人サービス:問題解決、礼儀正しさ
・結果
 -仮説は指示された
 -エンパワメント、報酬と研修は重要⇒問題解決に直結する

4.研究③(山口、岡田、小口 2015)
・休暇でツーリズムに行くことでストレスが低下するか?
・メンタルヘルスツーリズムが有効(Oguchi et al 2008)
 -生産性の向上
 -ストレス低減
・条件
 -休暇制度
 -休暇機能
 -ツーリズム
・インタビュー調査(愛知県1社、北海道1社、東京都3社)
・効果
 -メンタルヘルスケア:○
 -新たな能力開発:○
 -モチベーション:○
 -多様な視点:○
 -創造力:△
 -コミュニケーション(家族内):○
 -その他(新たな能力が身についた):△
・企業の効果
 -業務効率化:○
 -業績アップ:○
 -コミュニケーション改善:○
 -顧客満足度の向上:不明


IV.指定討論:沢登次彦氏(じゃらんリサーチセンター)
・地方に方に何かできることはないか?ツアーガイドの質の向上など
 ⇒休暇の効果の研究を学界で広めていくことで、人々に面白いメッセージを伝えるかも

V.指定討論:大学の先生
・心理学が何に寄与するか?
 -ホテルの数が足りない⇒旅館に移す⇒旅館の従業員満足を高める必要性
 -旅館の職務や地域へのコミットメントは高いが、旅館へのコミットメントが低い⇒いろいろな旅館で働いている
・記憶に残るサービスが重要では?
 -すぐ対応してくれたというのが記憶に残る
・お客様の感謝のメッセージを読むことで、職務満足が高まる?
・どのような旅がストレスを下げるか?
 -個人の要因や状況による
・写真の有効活用











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