3:1のポジティブ比でうまくいくひきこもり支援

不登校生やひきこもりの支援に携わっていると、ポジティブなフィードバックの重要性に気づかされることが多々あります。ポジティブなフィードバックが重要というのは、単に褒めればいいということではなく、ネガティブな感情を引き起こすコミュニケーションとポジティブな感情を引き起こすコミュニケーションのバランスに注意するということです。

例えば、休みがちの生徒を抱える担任の先生は、生徒本人に対しても、生徒の保護者の方に対しても、ネガティブな感情を喚起するコミュニケーションを取りがちです。生徒が学校を休んだ翌日に「昨日はどうかした?」とたずねたり、金曜日に「来週は月曜から来るんだぞ!」と伝えたりするのはよくある例です。担任の先生は、生徒に対して気にかけているということを伝えようとして、このようなコミュニケーションをとっているのですが、生徒にとっては、自分の失敗や能力の低さを指摘されているようで、ネガティブなコミュニケーションとなっています。

ひきこもりの方に対してはどうでしょうか。「今日は少しでも外出した?」「毎日家でごろごろしてないで、少しは外に出て日差しを浴びた方が健康のためだよ」「朝ごはんぐらいちゃんと食べたら」「不衛生だから部屋掃除しとくよ」などなど、ネガティブな感情を引き起こす可能性のある掛け声は無限にあります。また、どれも、ネガティブな感情を引き起こすために行っている掛け声ではないことに注意が必要です。もちろん、あまり外出しない子どもにイライラしてつい皮肉を言ってしまう保護者の方もいるとは思いますが、善意で行っている言葉がけでさえ、「うるさい」「うざい」「しつこい」「私の勝手でしょ!」と、ネガティブな感情を引き起こす可能性があります。

このような言葉がけをしてはいけないと言っているわけではありません。大事なのは、ネガティブな感情を引き起こす言葉がけと、ポジティブな感情を引き起こす言葉がけの比率です。

これは、心理学では、ロサダ比と呼ばれていますが、ポジティブ:ネガティブが、3:1である場合、人は、幸福に生き、他者と良好な人間関係を築くことができることがわかっています。

詳しくは、こちらの書籍にもまとめられています。







つまり、「昨日はちゃんとお風呂入ったの?」というようなネガティブな感情を引き起こす声かけ1回に対して、「あなたがいてくれて私は幸せよ」「いつも手伝ってくれてありがとう」「やっぱりあなたクイズの才能あるんじゃない?」というような、ポジティブな感情を引き起こす声かけを3回行いましょうということです。

ほとんどネガティブな言葉がけ、ポジティブな言葉がけよりもネガティブな言葉がけの方が多い、ポジティブな言葉がけとネガティブな言葉がけは同じ程度、というのはどれも、あまり良くない、つまり、相手の心身の健康を損ねる可能性がある言葉がけです。一方、ネガティブな言葉がけが全くなく、常にポジティブというのもあまり良くありません。

自分自身のことについて考えれば、常にポジティブというのは、楽観的過ぎて配慮に欠ける、問題点の分析ができていないと言えます。また、他者とのやり取りについて言えば、常にポジティブな言葉がけしかしないというのは、本当の意味で相手を信頼していなかったり、相手をコントロールしようとしていたり、もしくは、自分自身が無理をしているという可能性があり、そ良好な関係を築く助けにはなりません。

それでは、どうすればポジティブな感情を引き起こすような言葉がけができるかというと、それは、そう簡単なことではありません。ただ、3:1のロサダ比を意識しなければ、何も変わりません。

まずは3:1でネガティブよりもポジティブが多い方がいいという比率を意識するところからはじめてみましょう。

次に、ポジティブな言葉がけのパターンを身に付けると、比較的容易にポジティブな言葉がけができるようになると思います。以下にポジティブな言葉がけのパターンを挙げます。もちろん、これがすべてではありませんので、みなさんにも自分なりのレパートリーを作っていただきたいと思います。

①感謝

感謝は最も簡単に伝えられるポジティブなメッセージといえるのではないでしょうか。「ありがとう」「助かったよ」「感謝します」「またお願いします」「頼りにしてます」など、感謝を伝えるメッセージにも、様々なバリエーションが考えられます。

②労い、労り、思いやり、ノーマライズ

「大変だったね」「暑くない?」「何か困っていることはない?」「不便はない?」「人目が気になるんじゃ、外出が大変だね」「あなたはよく頑張ってるよ」「その状況じゃあ、そうなるのも仕方ないよ」など、相手を正しいと認め、労う言葉がけも、ポジティブなメッセージです。

ノーマライズとは、「普通化」とでも言うのでしょうか。「当然そうなるはず」「そうなるのが普通」「あなたは悪くない」「あなた異常じゃない」というメッセージを相手に伝えることです。不登校やひきこもりの方と関わる際には、その状態が「異常」や「問題」ではないという前提で関わり、ノーマライズすることが、非常に重要になります。

③尊敬、尊重、賞賛、是認、驚き

「そりゃすごいね!」「尊敬する」「好きなようにすべきじゃない?」「あなたなら正しい判断ができるはず」「よく頑張ったね」「あなたの考えは正しいと思う」「どうしてそんなことができたの!?」など、尊敬や賞賛、驚きを伝えるメッセージは、とても強力な、ポジティブメッセージです。

よく「褒めるのが大事」ということを耳にしますが、褒めるというのはとても難しいことで、ともすると、上から目線で偉そうに聞こえたり、相手をコントロールしようとしているように聞こえたりすることがあります。それに対して" target="_blank">アドラー心理学では、「" target="_blank">褒めるのではなく勇気づけるのが大事」と言われたりします。

「勇気づける」というのは、非常に複雑で曖昧な言葉のような気がしなくもないので、私は、「尊重」や「尊敬」と考えています。相手を誉めるときに、相手を「評価する」のではなく、「尊敬・尊重して」褒めるということです。そうすれば自然と、言葉の選び方や、非言語的なコミュニケーションも変わってくるのではないかと思います。

「尊重」のバリエーションの一つとして、「あなたは大したことないと思っているかもしれないけど(それは尊重しているけど)、私は、すごいと思うよ」と伝えるというものもあります。

是認とは「相手の行為や思想をよいと認めること」という意味です。具体的には、「○○したのは良かったんじゃない?」「偉そうに聞こえちゃったら申し訳ないけど、あなたの○○という考えはすごくいいと思う」表現が含まれます。

④楽しい話、やり取り、共感

ポジティブな感情を促進するためには、特別な言葉がけが無くてはならないということではありません。日常会話の中で、笑える話をしたり、相手が興味のあることについて話したり、話してもらったり、実際に、楽しいことを一緒にしたりということでも、ポジティブなコミュニケーションになります。

共感を伝えるというのも、この分類に含まれるのかもしれません。下手に相手を理解しようとすると、とても不自然だったり、ぎこちなくなったりしてしまうものです。しかし、お互いに楽しみながら「そうだよね!」「わかる!」「~な感じ?あぁ、そうじゃなくて~かぁ」などとやり取りすることで、互いにポジティブな感情を体験することができます。これも共感のあり方の一つではないかと思います。


さて、長くなってしまいましたが、大事なのは、ポジティブなメッセージとネガティブなメッセージは3:1のバランスでということです。不登校やひきこもりの方と関わる際には、動じてもネガティブなメッセージが多くなりがちです。もちろん「それは当然のことです!」(ノーマライズ)。ただ、少しでも3:1のバランスと、今回のブログで取り上げた多様なポジティブメッセージを意識していただくことで、不登校・ひきこもり支援がより円滑に、効果的に行えるのではないかと思います。






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